ホーム > パインケミカル > 松脂(ロジン)を訪ねて > 03.紀州松煙墨


パインケミカル

紀州松煙の工房にて

堀池さんの工房

画像 堀池雅夫氏の工房の写真
堀池雅夫さんの工房

戦前は「黒い米」といわれた松煙煤の生産は、紀州(和歌山)での最盛期には200社を越えていたが、過酷な労働と原料の入手難、度重なる松枯れなどにより、昭和30年過ぎには廃絶している。
堀池さんは紀州松煙墨の復活を試みて、10年来松煙墨作りに励んでいる。堀池さんの工房はJR紀伊田辺から車で30分の鮎川という清流の流れる山間にある。四季折々に美しい自然の景色の中で、墨を作り、蛍の飛び交う清流を眺めながら、仲間と一杯やれば墨作りの苦労も忘れるとか。
工房内には、紀州松煙墨で描かれた額や軸が無造作にかけられている。少しでも松煙墨の良さを認知していただけるよう、墨制作教室を開いたり、墨の直接販売も行っている。

画像 北澤光鳳氏の作品写真
北澤 光鳳作

画像 松下黄沙氏の作品写真
松下 黄沙作

松煙墨の原料

松煙墨の原料となる古松(こまつ:赤松等が風などで自然に倒れたり、自然に枯れたりしたもので、風倒木ともいわれる)には、脂(やに)、つまり油がたっぷりとのっているのがよいとのこと。岩場で生育したり、木目の小さいものが良く、その上倒れてから10年以上たったものは、周りの白太の部分が腐って赤身だけとなり、油が中心部ににじみ、鰹節のような色をしたものとなり、これが最高の古松とか。
松煙墨の原料には、これ以外にも生きた松の立木を使う生き松という方法もあるが、これは油は多いけれども、水分も多くて煤の質にむらが多く、白くなってしまう。また、松食い虫でやられたものは、油気が抜けてしまって煤にはならないとのこと。
また、当社でも生産しているような松脂(ロジン)を原料にしたものは、純粋すぎて油煙みたいな質感になってしまうとのこと。
要するに、良い松煙墨を作るためには、松からのいろいろな成分(松脂、木のかす、色素など)が必要で、それにより立体感がでて、色も青っぽい透明感のある墨となるのが松煙墨の特色です。
しかし、古松も現在では集めるのが大変で、山仕事の人に頼んで紀州全域から探し求めているとか。

画像 松煙墨原料の写真1
原料の古松(別名:風倒木)

画像 松煙墨原料の写真2
古松を薪状にしたもの

紀州松煙墨の出来るまで

墨は次のような工程で作られます。

1.原料の選定

古松を薪状に割ったものを原料として用います。

画像 紀州松煙墨製造工程の写真1
古松の皮を剥ぎ、小さい丸太にする。

画像 紀州松煙墨製造工程の写真2
この丸太を割って、縦20cm、横10cm位の薄い薪状にする。

2.障子焚きによる煤の採取

画像 紀州松煙墨製造工程の写真3
障子焚きの説明をする堀池さん

良い煤を採取するためには、燃焼の条件が大切になってくる。炎を大きくして燃焼する場合と、小さくして燃焼する場合では煤煙の粒子の大きさや均一性に大きな差が出てくる。大きく燃やすといい煤はとれない。
小さい赤い炎を保つのがコツで、つまり不完全燃焼の状態にすることが必要。
松に含まれる脂(やに)は燃えやすいから、油煙に近い炎になりやすい。一方、松の幹が燃えるときには、多量の熱を必要とするから、炎の温度は低いが大きい煤となる。
障子焚きは約100時間をかけて、ゆっくりと行う。500Kgの古松からわずか10Kg(収率2%)の煤しか取れない。

3.煤の濾過と圧縮

採取した煤はゴミが入っていたり、空気を多量に含むので、圧縮行程が必要になってくる。煤のゴミを取り除いた後で、圧縮機にかけて体積を1/8位にする。
その後、袋詰めして積み上げて6カ月位保管し、自然圧縮をおこない、空気を出来る限り抜く。煤はここで使用される以外に、奈良、三重(鈴鹿)などへ出荷され、松煙墨の原料として使われている。

画像 紀州松煙墨製造工程の写真4
墨を圧縮する

画像 紀州松煙墨製造工程の写真5
墨を袋詰めして、自然圧縮する

4.膠の溶解  5.混和

空気を抜いた煤は、膠を溶解したものと香料を混ぜて混和します。この時によく混和して、煉りむらのないように空気の入らないようにして、手でもみながら煉っていきます。
膠は和膠と呼ばれる牛や鹿から取れたものが良く、水にさっと溶けるものがよい。粘りけは強すぎても弱すぎてもだめとのこと。墨の伸びが異なる。煤と膠は10:6位で混和する。

6.型入れ

画像 型の写真

混和した墨は柔らかい内に型入れを行う。型入れは木型を用い、木目の細かい、伐採後10年以上乾燥させた梨の木を使う。
この木型を作る職人も全国で2人しかいないとのことで、今後が心配とか。
墨は標準で約15グラムあり、これを1丁型と呼んでいる。

7.灰乾燥  8.自然乾燥  9.磨き  10.製品

木型から取り出した墨は紀州備長炭の灰の中で約2カ月ほど自然乾燥する。灰は毎日交換し、だんだんと水分の少ない灰の中へいれていく。灰乾燥の終わった墨は藁(わら)で編んだ紐でくくり、約4カ月ほど自然乾燥し、割れを防止する。
自然乾燥が終われば、ハマグリの貝殻で磨きをかけ艶を出す。
その後、彩色と包装をし製品となる。ここまで約6カ月必要である。

ページトップへ