江戸解き友禅とは
「解く」という言葉には、結んだり縛ったりしているものをゆるめて解き放す。(例えば帯をほどく)また、縫い合わせてあるものの糸を抜き取って離す。編んであるものを解く。(例えば着物をほどく)という意味合いがあります。今回取材した江戸解き友禅の語源の由来もここにあります。友禅の染め文様の俗称として、江戸解き文様なる呼び方があります。これは、松、桜、牡丹、流水などに古来からの有名な和歌や物語に出てくる器物を取り入れた模様のことを言います。
江戸の幕末の頃、江戸に住居を構えていた大名達の家族を本国へ帰したり、御殿女中が解雇されたりしたため、その時に使っていた品物、特に衣類が一般町民に売りに出されました。しかし、そのままでは着用できないので古着屋でこれを解いて売りました。これが江戸解き友禅の語源といわれています。江戸の町人の手によって染められた友禅は、独特のデザインに発展していき、華やかさを抑えた色合いで描かれる模様は、まさに江戸風の美しさであるといえます。京友禅の雅やかさとは異なり、粋な文様が江戸友禅の特徴でもあります。
出展:http://www.waterhouse.com/ts/designer.htm
友禅流し
友禅と言えばすぐに友禅流しを思い浮かべる人も多いと思うが、友禅は水とは切っても切れない関係で、京友禅、加賀友禅、また、江戸友禅も水のきれいな場所で発展してきています。今でこそ公害問題などで川の水で直接友禅流しをしているところは少なくなったが、京都では鴨川、堀川、加賀では犀川、そして江戸では隅田川という具合である。また、友禅は水の芸術とも言われ、水は友禅の命の源であり、水洗いによって友禅の本当の美しさが浮かんでくる。
そして、友禅流しといえば演歌の世界ではないが、何かもの悲しく、反面、情緒・風情があるのではないだろうか。
10年以上前になるが、牧村三枝子の歌った「友禅流し」という歌があるが、ここにも加賀友禅の世界が見事に歌い出されている。
友禅流し(歌:牧村三枝子、作詞:水木かおる、作曲:乙田修三)
露草で描いた恋の、行くすえは水に流れる
これがさだめか紅殻格子、慕う女のこころのように
ゆれて揉まれる絵模様の、悲しくも美しい友禅流し
一番の歌詞には、加賀の犀川、浅野川がでてくる。また、この歌詞に出てくる露草も友禅には欠かせない大切な染料の一つで、露草の花弁を使って天然染料としている。消えやすい色の代表としてあげられる。(はかなさがここにある)

露草(つゆくさ)/日本語大辞典(講談社)
伊藤さんのアトリエにて
伊藤さんのアトリエは東京の板橋にあり、ここで助手のかたと友禅染の仕事をしています。いただいた名刺には、江戸友禅絵師とあり、きもの・工芸・友禅画の作家です。実は友禅の工程のどこかに私達の求める松脂が使われているのではないかとの思いから、文献、書籍などで探していたが、確かに友禅のろうけつに松脂が使われているとは書かれているが、現実にはお目にかかれなかった。インタ-ネットでの検索を通じて、伊藤さんの紹介されているホ-ムペ-ジに出くわし、そこに江戸解き友禅なる言葉と松脂という言葉が使われていることを見いだし、今回の取材に繋げたわけです。
伊藤さんは最初にも紹介しているとおり、大分県の出身で、東京染色学院を卒業してそこで友禅の知識を学んだそうです。松脂との出会いもその時の恩師がやはり松脂を使っていたとのことで、独立して友禅画をするようになってから、なにか特徴を出したいと思い、松脂を使い始めたそうです。また、友禅にとって技術は非常に必要だが、見せては行けないし、いろいろとアイデアを生かしながら描いていけるとのこと。
友禅のここに松脂がつかわれています。
友禅の工程は約30以上あるが、その中で友禅挿しと呼ばれるところで、染料を布地に付けるところで使っています。簡単に言えばろうけつ染めの松脂版と言ったところです。松脂は文様のところで、少し際だたせたいところに使うとのこと。例えば、染料の色がやわらかく重なり合い、ちょうど葉に光が当たって照りかえっているように見えるとのこと。松脂を使うことによって、それほど見た目には変わりはないが、染め上がりに優しい効果を、この松脂がを生み出すとのこと。
友禅染の工程で防染材が使われますが、これは染色で模様を生地の上に表現するために、何らかの方法で模様部分に染料が入らないようにする必要があり、そのために糊や蝋を使って防染するわけです。防染材に使用される蝋には、石油からのパラフィンワックス、櫨(はぜ)の木から採れる木蝋、白蝋、蜜蜂の巣から採れる蜜蝋、牛脂や大豆油から採れるステアリン酸、そして松から採れる松脂等がありますが、松脂を使用している防染はあまりありません。


上の写真で、松の葉が少し光っているように見えるところがあるが、これが松脂の効果とのこと。
友禅の工程

下絵・白布地に文様を描く 文様に染料で色を付ける
白生地に文様を描いていくのは、青花を使います。青花は露草の花の汁を染みこませた青花紙、もう一つは澱粉にヨ-ドを反応させて作る化学青花です。下絵が青白く描かれているのはそのためです。

右:糊(糸目糊) 左:これが松脂:溶剤で溶いたもの

色を付けられた下絵に松脂でろう付けする。
糸目糊置・・・青花で描かれた下絵に沿って糊を入れていき、染料液のにじみや浸透を防ぐために行う。ここで使用される糊は澱粉糊やゴム糊があります。
友禅染の美しさ・・・それは白いラインと染め色の美しさ
伊藤さんは手で描くことが作品に唯一性を生み、作家の味と個性が滲み出るとおっしゃる。そして、一言で言えば白いラインと染め色の美しさだと強調します。江戸解き友禅の特徴は繊細であるが大胆であり、ヤボであるが緻密であり、粋でいなせであるとのこと。
●美しく装おうとする女心は変わらない
昔から、自分を美しく飾りたいという女心は不滅で、不変であり、そうしたことから生まれたアイデアが友禅染という多彩な文様染めに繋がっていったものといえる。
参考図書・参考ホ-ムペ-ジ
- 日本大百科全書(小学館)
- 大言海 大槻 文彦著(小学館)
- 模様染の伝統技法 青柳 太陽著(理工学社)
- 日本の染め織り 中江 克己著(紀尾井書房)
- 染織のこころ 中島 孝著(時事通信社)
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