ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

松煙墨製造

墨運堂

他業種と墨のコラボ

 しかも松煙墨については、赤松の木を燃やして煤をつくる専門の職人が現在1人もいないという危機的状況にある。同社は「昔買いためた煤を大事に使っている」というが、それもかつてはトン単位であった在庫がかなり少なくなっている。

 そのうえ現在は墨専用の膠をつくっているメーカーもない。そのため同社はやむなく大量生産汎用型の膠を墨に合うように加工している。

 では、墨、特に固形墨はいずれ消えていってしまう運命なのだろうか。西川さんも影林さんも「何としても残したい」と口をそろえる。

 幸い、一方では明るい話題もある。近年、中国で日本の墨の品質が高く評価され、同社の製品も商社経由で輸出をしているのだ。もともと中国で生まれたものが、今は逆輸入されているというわけだ。同社の墨は毛筆文化のある韓国にも輸出されている。

 また、同社は、電柱にあるトランスの帯電量を効率化するための塗材、黒壁やスレート瓦の添加材などの建材、高級車のハンドルやダッシュボードの塗料材などを、書道関係以外の会社と共同開発して成功している。墨に使用している煤の粒子径は20~50ナノメーターと極微粒子であり、それを練ったり分散したりする中で長年蓄積したノウハウが活かされていると西川さん。

 1400年前に日本に伝わってきた墨の技術が21世紀においてこれほど多様に使われるとは、いったい誰が想像しただろうか。これぞまさしく、伝説のテクノロジーである。

にしかわ・ゆきお(写真(左)) 1955年生まれ。1976年入社。「墨の場合、煤の役割は黒の強さとか赤みを帯びているといった色目の表現、膠は書き味とかにじみに関わる」と語る
かげばやし・きよひこ (写真(右))1955年生まれ。1977年入社。「墨の文化を残していきたいので、がんこ一徹長屋の隣に『墨の資料館』をつくり、一般の人に開放している」と語る

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