02.天体望遠鏡と松脂(ロジン)
松脂(ロジン)で宇宙の神秘とロマンを訪ねます
夜空に輝く数多くの星、そして遠く宇宙へと。子供の頃によく星を見つめて物思いにふけつたことがあると思います。人類太古の昔から、人々は宇宙にその生活の根元を求めるとともに、夢、ロマン、そしていろいろな思いを追い求めてきたと思います。中世に天体望遠鏡が発明されて以来、そこに使われる反射鏡(レンズ)により、科学的な進歩は目を見張るばかりになっていますが、人々の見る夢、ロマンには代わりはないと思います。
この反射鏡に使用されるレンズを磨く(研磨)のに松脂(ロジン)が大切な働きをしていることに驚かされます。
第二回目は、このレンズを磨くのに使用されている松脂(ロジン)を追っていきます。
取材協力
特殊光学研究所 代表者:苗村敬夫
滋賀県野洲郡中主町八夫
TEL:0775-89-2509
琵琶湖のほとりの静かな田園の町、中主町に特殊光学研究所はあります。
歴史とロマンに囲まれた中主町でレンズの話を取材しました。


JR野洲駅
1.特殊光学研究所
墨の歴史

苗村 敬夫さん
苗村さんの工房では現在(1998年4月)日本では最大の研磨レンズになると言われる直径110cmで重さ300kgもあるレンズの最後の追い込みにかかっていました。
これは研磨し始めてから約6カ月もかかっているもので、98年5月には完成の予定です。完成すれば、徳島県那賀川町の天文台に設置される予定です。
レンズの研磨には機械の手を借りているとは言うものの、大半は手作業が必要で、その作品はまさに制作者の魂のこもった芸術作品そのものです。それ故に、作品は送り出すときは娘を嫁にやるような気持ちになるとか。苗村さんがここ野洲町に工房を構えたのは、生まれ故郷ということもあるが、静かなため振動が少なく、ほこりも少なくその上気候的にもレンズ磨きに最適の条件を備えているとのこと。
この道40年、今までに制作したレンズは1000個を優に越えている。最低でも10年以上の経験が必要とされるこの世界で、苗村さんの作品は見事という以外にない。

アンドロメダ大星雲
現在日本国内では東京天文台の直径188㎝のものが最大。
ただし、これはイギリスからの輸入とのことで、国内では苗村さんの研磨しているレンズが最大となる予定。
苗村さんのレンズで何万年光年、何億万光年先の星座を眺めて見ませんか。
2.レンズの研磨(反射鏡)
鏡材と研磨用の材料
| 鏡材 | 鏡材のガラスはパイレックスガラス(米国:コ-ニング社)のものが一般的ですが、口径が大きくなればゼニドウア(独:ショット社)のものが多く使われています。化学的な変化が少なく、膨張係数の小さいものが(熱変動の小さいもの)適しています。 |
|---|---|
| 研削砂 | 炭化水素系と酸化アルミニウム系の2つがあり、粒度によって使い分けられています。 |
| 研磨材 | 一般的に酸化セリウム(CeO2)が使用されています。そして、大切なのがアスファルトと松脂(ロジン)から作られるピッチ盤と呼ばれるものです。アスファルトは人によって好みがあるとのことですが、天然産、石油系のものが使われます。松脂(ロジン)の種類は 特に指定はないとのことですが、一般的には中国産のガムロジンが使われています。 |
鏡材と研磨用の材料
研磨行程は砂ずり→ピッチ盤と酸化セリウムによる、みがき工程→検査→完成となります。以下にこの工程について説明します。
A.砂ずり

反転ずりと順ずり
研削砂による砂ずりを行います。この工程により、鏡面に必要な凹面を作ります。砂ずりは荒ずり、中ずり、そして仕上げずりで、各砂反転ずりと順ずりを行います。
B.ピッチ盤の作成

完成したピッチ盤

ピッチ盤の溝切り
●ピッチ盤の作り方
ピッチ盤を作るには、アスフアルトと松脂(ロジン)を約7:3(夏は5:5)位の割合で熱をかけて混合します。混合したものを鏡の周りにテ-プ等を貼り、の上に流し込みます。
冷えてきてから、手でさわってゴムまりぐらいになったところで鏡面からはずします。このようにして出来たピッチ盤を自然冷却し、周囲のはみ出た所を削り落とし、溝きりを行います。
ピッチ盤の硬さは爪を立ててみて、跡形が少し残る程度の粘度が良いとされています。この硬さが、鏡面作りの成功、不成功につながる大きいポイントです。なにより鏡面に傷をつけない硬さが必要です。
●松脂(ロジン)の役割
松脂(ロジン)の役割は、このピッチ盤の堅さの調整のためと粘着性の両面から大切で、堅すぎても、柔らかすぎても、鏡面に傷を付けたり、剥離出来ない事があります。
C.酸化セリウムとピッチ盤による研磨

酸化セリウムを水にとき、鏡面に万遍なく塗布する。
この酸化セリウムで磨くことにより、鏡面の平滑性を高めます。

ピッチ盤をのせて、鏡面の研磨開始。ピッチ盤は研磨に合わせていろいろ大きさを変えていく。
ピッチ盤は酸化セリウムと鏡面を密着させるのに必要です。
この工程を何遍も何遍も繰り返し、その都度鏡面をテストし、求める凹面の放物面へと磨いていきます。
D.鏡面の検査

鏡面のチェックと完成。
鏡面のチェックにはフ-コ計が使用されます。

研磨とテストを繰り返し行い、凹面の誤差1/1万ミリ、または1/2万ミリの鏡面を作っていきます。究極は1/10万ミリの誤差の世界とか。まさに芸術の世界です。

