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パインケミカル

10.銅版画と松脂(ロジン)

わずか数十センチ四方の銅版に表現される世界が私たちに与えてくれる夢は無限である。

画像 銅版画の写真

取材協力

多摩美術大学 絵画学科版画研究室 渡辺 達正教授
京都八王子市鑓水2-1723 TEL:0426-76-8611
ホ-ムペ-ジ:http://www.tamabi.ac.jp

画像 多摩美術大学の地図

多摩美術大学は1935年、多摩帝国美術学校として東京世田谷に設立され、以来60有余年美術、芸術関係に多くの人材を送り出してきている。
1974年には八王子に美術学部を移転している。
渡辺教授は1969年、多摩美術大学の絵画科を卒業後、各所の個展、美術展で多数作品を発表され、その高い芸術性と個性的な作品は高い評価を受けており、この道の第一人者である。

銅版画

銅版画は15-16世紀、ヨ-ロッパに始まっている。彫金の技術の応用から、金属に彫刻する技術があり、銅版に彫刻されるようになり、その後彫刻した銅版にインキを入れて、紙に印刷する技術が広まってきた。
17世紀になると今までのように直接銅版に彫刻するのではなく、腐蝕によるエッチングという技術が編み出され、ここにエッチングに欠かせないグランド(防蝕剤)が開発され、松脂が使われるようになってきた。日本には、明治になってからこの技術が伝わり、その後、大蔵省で印刷するお札の原板に銅版画が採用されるなどして、今日に至っている。

渡辺先生がこの道に入られたのは、多摩美大の学生の頃からであり、モチ-フとしては故郷名古屋の庄内川から、魚と花が多い。先生の作品を色々見せていただいたが、先生独特の感性でもって彫刻された作品はみごとな出来映えで、多くの人を魅了くれる。

銅版画の技法

いろいろあるが、その内で松脂を使用しているのは次の3つである。

1.エッチング(Etching)

銅版を酸で腐蝕させて版を作る間接法の最も基本的な技法である。彫る作業を伴わないため初心者でも自由に描画できる特徴がある。この方法は、銅版の表面をアスフアルト、松脂、白ロウを溶かした耐酸性の防蝕剤で覆い、針で軽く絵を描き銅を露出させ、その部分を腐蝕液によって腐蝕させる方法である。
エッチングに使用する防蝕剤をグランドというが、このグランドは固すぎて線を引いたときにひび割れしたり、軟らかすぎて引いた線がふさがってしまうようでは使いにくい。グランドを引き終わったら、針で描画したとき描いた線がはっきり見えるように、油煙でいぶす。

画像 銅版画の技法解説写真
銅版にグランドを引き、その後、アクアチントのため、松脂の粉体を塗布。

画像 渡辺教授の作品写真1
昆虫:エッチング+アクアチント技法による作品(渡辺教授の作品)

2.ソフト・グランド(Soft ground)

この方法は、エッチング技法と同じように銅版の表面を防蝕剤(グランド)で覆うが、針で描画がするのではない。このグランドに布や枯葉、紙、アルミホイルのしわなどの細かい凹凸を押しつけると、グランドは細かい布目状にはぎ取られる。この方法で紙を当てて、上から強くなぞったり、布などのテクスチャ-を押し当てて描画する技法である。
ソフトグランドは市販されている固形状のものを、少し熱した銅版の上で溶かし、ロ-ラ-で均一に引いて使う。ソフトグランドは版面に引いたとき、少しベタベタした状態でなくてはならないので、エッチング用の液体グランドを使う場合は、少量のサラダ油を入れて使う。

3.アクアチント(Aquatint)

防蝕剤として松脂の粉末を熱で銅版に定着させ、その粗密の具合によって調子を作り、腐蝕させることによって、明暗の階調を作り出す技法である。
この無数の松脂と松脂の間に、わずかに露出する銅の部分を何段階かに分け、防蝕剤で止めながら腐蝕することにより、濃淡の調子を作り出していく。松脂の粒子が細かいと、あまり深い腐蝕は出来ないが、微妙な調子を作るのにはよい。

画像 松脂の写真1
松脂(固形)

画像 松脂の写真2
乳鉢で粉末にする。

松脂の粉末は、銅の表面に細かな凹凸を作り出すことが出来るが、腐蝕液に入れても一様に腐蝕するだけなので、それを更に松脂の量と防蝕の方法で調節することで、意図的なボカシを得ることが出来る。また、松脂の版面への散布量と、灰色から黒への明暗の段階との関係は、多孔質な面を作るためには版面上の松脂と松脂の間隔が広くて銅版が光っていてはだめであり、また松脂の散布量が多すぎても腐蝕が始まらず失敗する。
銅版に松脂を散布した最良の状態は判断しにくいが、粉末が白くうっすらと版面を覆うぐらいであれば、松脂と松脂の間に銅が露出するであろう。しかし、熱しすぎると松脂が溶けて流れ出し、完全に版面を覆ってしまうために腐蝕が起こらなくなる。

画像 作業工程の動画画像 作業工程の写真1
松脂の粉末を塗布する。

画像 作業工程の写真2
松脂の粉末を塗布

画像 作業工程の写真3
銅版を加熱/色が変わる

画像 作業工程の写真4
銅版を加熱/色が変わる

画像 作業工程の写真5
腐蝕液を洗浄してとる。

画像 作業工程の写真6
細かいところを削る。

画像 渡辺教授の作品写真2
完成/表題:氷霧II

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