ホーム > パインケミカル > 松脂(ロジン)を訪ねて > 14.越前和紙と墨流し


パインケミカル

墨流し技法

伝統工芸士で福井県の無形文化財指定者でもあり、福井県伝統工芸士会連合会と越前和紙伝統工芸士会の会長を務める福田忠雄さん。福田さんは大正15年生まれで現在74歳。先代の後ろ姿を見ながら墨流しの技法を今に受け継ぎ、15歳の時に正式に弟子入りしたときには既に一通りの紙漉の技術は習得していたという。それから約60年、未だに試行錯誤と勉強の連続だと説明される。

伝統は体で受け継いでいくもので、決して書いたものではない

現在、今立町大瀧地区では紙漉きに携わる人は100人以下となっており、中でも腕の良い職人は50人に足らず。一人前になるには最低でも10年は必要と言われる伝統工芸の技術を、いかに後世に残していくかが大切な課題として残されている。幸いにして福田さんのお孫さんが後継者になっており、貴重な一子相伝の技法を後生へ残すことが出来ますと笑っておられた。

福田さんの墨流しの技術(古代墨流し)

墨流しは約800年前、平安時代に始まるといわれる。手漉き和紙に墨や染料を用いて模様を描く方法。この伝統芸術の墨流しができるのは、福田さんを含めて僅かお二人だという。ちょうど時を同じくして、福井県から無形文化財に指定されたそうで、「伝統芸術を後世に伝えていく上でも励みになります」とおっしゃる。墨流しの技法を用いたものとしては、西本願寺所蔵の「三六人集」や、四天王寺の扇面古写経などが特に有名である。

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真1画像 福田氏の墨流し作業風景の写真2画像 福田氏の墨流し作業風景の写真3
水槽に水を入れ、筆に付けた墨を一滴落とす。サイズ剤(松脂)を一滴落とし輪を広げる。これを幾度か繰り替えしていくと写真のような見事な輪模様ができあがる。これを団扇で扇いだり、口で風を吹いて波形を自在に変化させた後、上から和紙を置き、模様を吸い取る。

墨流しの行程は次のようである。

  1. 水槽に水を張る。その表面の埃を除去する。
  2. 原料を厳選して作り上げた墨に松脂の煮汁を混ぜた墨汁を滴下し、その中心を松脂の煮汁をつけた細棒で突いて拡散させる操作を、水面一杯になるまで繰り返す。
     (墨汁の他、染料も使用する)
  3. 模様に変化を付けるため、水面に息を吹きかけたり扇子であおぐ。
  4. できあがった模様を鳥の子紙や奉書紙に写し取る。
  5. 紙を水面より引き上げる。
  6. 表面の余分な墨・染料を水で洗い流す。

墨流しの隠し味・松脂(サイズ剤)-松脂の入れ具合が墨流しの命-

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真4

染料を用いた墨流しの場合、右手に松脂(サイズ剤)をつけた筆を持ち、左手には墨、朱、青の3本の筆を持つ。まず始めに墨の筆を水面に浸けると黒い輪が広がる。その中心に松脂の筆をさすと一瞬にして黒い円が広がる。次に、中心に朱を入れると朱の輪ができる。この中心に松脂の筆をさすと、一瞬にして朱の円弧となる。同様にして、青の円弧を描く。これを何回も繰り返すことにより、幾重にも広がる円弧が描かれる。同心円で広がっていく様はまことに見事であり、これこそ伝統芸術の粋である。

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真5画像 福田氏の墨流し作業風景の写真6画像 福田氏の墨流し作業風景の写真7
次々に広がる波紋。開いていく波紋を途切れないようにすることが難しい。筆の置き方、墨の流し方、息のふき方など微妙な加減で、自在に模様を作り出す。筆を水面に入れるタイミングと息づかいが一番難しいという。ここに伝統の技術が隠されてる。

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真8
福田さんの墨と染料の筆

水槽に作った波紋を次に和紙に吸い取ります。まず、波紋を扇子で扇ぎ、複雑で美しい波形模様にしていきます。出来上がった波形の上に和紙を静かに置き、文様を吸い取りますが、これが鍛錬技だとか。和紙をかぶせてから十数秒、水槽の模様が裏面にうっすらと浮かび上がってくるのを見計らって静にこの和紙を引き上げていきます。すると水槽の文様が見事なまでに和紙に移ります。吸い取った和紙は天日で乾燥し裁断して製品とします。実は、この吸い取り用の和紙にも松脂(サイズ剤)が添加されており、微妙な吸い取り加減をコントロールしています。福田さん宅では、この墨流しの和紙を使って財布や名刺入れも作っている。

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真9
出来上がった波紋の上に和紙を置く

画像 福田氏の墨流し作業風景の写真10
墨流しで作られた文様を吸い取った和紙

墨流しの和紙を用いた製品

画像 墨流し和紙を用いた製品の写真1
福田さん謹製、墨流し札入れ

画像 墨流し和紙を用いた製品の写真2
墨流し和紙で作った越前和紙人形

和紙の参考文献

  1. 紙の科学-トイレットペーパーから情報処理まで-町田 誠之著(講談社)
  2. 伝統的工芸品-越前紙漉資料集 福井県和紙工業協同組合(編集・発行)
  3. 和紙の四季 町田 誠之著(駸々堂)
  4. 文房四宝-紙の話- 榊 莫山著(角川書店)
  5. 紙の道 陳舜臣著(読売新聞社)
  6. 和紙周遊 小林 良生著(ユニ出版)
  7. 紙の世界 相馬 太郎著(講談社出版サービスセンター)

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