
次代への羅針盤
社会を俯瞰する視点が優れた研究を生む
今年9月に早稲田大学総長に就任した本間敬之氏。そのキャリアを通じて、
固体表面に特有のナノ構造や性質を利用し、新たな機能を持つ材料を創出する研究に取り組んできた。
界面電気化学の最先端で数々の実績を挙げてきた本間氏が、
今、後進に伝えたい「これからの時代に養うべき能力」とは。
Takayuki Homma
本間敬之
早稲田大学 総長
化学の「文学性」に惹かれて
私の研究人生のスタートは、1980年代中頃。今も勤務する早稲田大学が出発点でした。大学では理工学部に進学しましたが、子どもの頃から科学や物理に没頭する理科少年だったわけではありません。小学生から始めた剣道は高校を卒業するまで続けましたし、中高では文学など文系の分野にも関心を持ちました。大学で化学系を目指した理由も、分子や結晶などの物質のふるまいに、何か数式では割り切れない「文学性」のようなものを感じたからでした。その感覚が、後の研究人生にも確かな影響を与えたように思います。
卒業研究で所属したのは、現在の専門にもつながる電気化学の研究室でした。磁性薄膜などの機能性薄膜を電気化学のプロセスを用いて作製する、現在で言うナノテクノロジーの研究です。当時はナノテクノロジーという言葉がまだ定着していない頃で、期せずして、世に先駆けて超微細の世界に向き合うことになりました。
しかし、決して華やかな世界だったわけではありません。学部生の頃は試行錯誤の連続で、いくつもの添加剤を組み合わせ、濃度を調整しながら実験を重ねて出来上がったサンプルを解析し、結果を記録する日々でした。実験サンプルはドンドン積み上がり、サンプル番号が1年間で1000以上にのぼったほどです。
もともと原子や分子の観察が好きだったので充実感はありましたが、試行錯誤にとどまらず「観察や実験の先に進むべきではないか」という思いも同時に生じていました。実験結果の背後に潜む普遍的な真理に意識が向かうようになったのです。化学に傾倒していた私が、理論計算などの理論面に関心を向けるようになったのは、この頃でした。