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伝説のテクノロジー

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出雲大社「平成の大遷宮」で約120年ぶりに復活した「ちゃん塗り」の技術

古文書に記されていたちゃん塗りの伝統

 もちろん修理そのものは、専門の技術者によって行われる。今回、出雲大社の大遷宮の修理を担ったのは、国指定の重要文化財の修理を行う技術団体である公益財団法人文化財建造物保存技術協会(文建協)の技術者たちだ。文建協の技術者たちは工事が始まる3年ほど前にまず建物の状況を知るための調査を行った。

 「建物がどの程度傷んでいるかを調べるのですが、解体してみないと分からないこともあります。しかし修理の前に解体することはできません。したがって見えない部分は外部の状態から推測して、修理計画の立案を行うことになります。出雲大社の場合、大屋根の檜皮葺(ひわだぶき)には下部で長さ4尺、上に行くほど短くなり最上部で2.5尺の檜皮を使っているという記録が残されていましたが、実際に解体してみたら上部で使われている檜皮は3尺のものでした。2.5尺は使われていなかったので、そこは途中で設計を変更しました」

 今回の修理に際し、設計監理事務所長を務めた文建協副参事の岡信治さんが言う。

 そうした調査をしているとき、岡さんは出雲大社が保管していた「延享造営傳(えんきょうぞうえいでん)」という古文書をもう一度改めて読み返してみた。現在の本殿が造営されたときのことを記した資料だが、あるページを見たとき岡さんの目が留まった。大屋根の棟飾りを覆う銅板などの外側に「ちゃん塗り」を施したという意味の記述があったからだ。

 ちゃん塗りは日本の伝統的な塗装技法のひとつで、松やにを主成分に、えの油(エゴマの油)、鉛、石灰などを配合した「ちゃん」を使うのが特徴だ。伸縮性に優れ、薄い銅板を保護するのに適しているとも言われ、もともとは西洋から伝わったものだとする説もある。しかし、近代以降になると化学塗料のペンキなどに押され、ちゃん塗りの技法は滅多に使われないようになっていった。

 ただ、岡さんの目が留まったのは、ちゃん塗りという珍しい技法が使われていたことが分かったからではなかった。むしろその逆で、その記述に該当する部分の銅板を見ても、しっかりした塗膜が見当たらなかったから、疑問に思ったのだった。

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