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伝説のテクノロジー

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新しいアートの世界を切り拓く200%ポジティブ体質の書道家

書道家 武田双雲さん

「愛」という字に女性が号泣

 最初のうちは恥ずかしくて顔も上げられず、ただ黙って字を書くだけだった。やがて「あなたの言葉書きます」という看板を出すと、酔っ払った中年のサラリーマンから初めてリクエストされた。このとき書いた字は「松田聖子」。

 それからしばらくして今度は若い女性に「愛」という字をリクエストされた。失恋したばかりだと小さな声で話していたその女性は、武田さんが書いた「愛」の字を見ると号泣した。自分の作品で人を泣かすことができるという、武田さんにとっては忘れることのできない出来事となった。

 以後、武田さんは音楽家、歌手、映像作家、現代アート作家、ダンサーなど、枠にとらわれず数多くの人とコラボしてきた。ピアノ、ハープ、ギター、さらにシタールやトランペットなど、「ほぼすべての楽器演奏家とコラボしてきました」というほどだ。

 「コラボすると、毎回、大きな刺激を受けます。すべての人から学ぶことがたくさんありました。なんでそんなにコラボするのかとよく聞かれますが、書道自体、墨職人とのコラボだと僕は思っています。夫婦だって妻と夫のコラボですし、日常生活のなかでもさまざまな人とコラボしているじゃないですか。ひとりで完結できることなんてひとつもありません。だから僕にとってコラボはごく当たり前のことなのです」

「上手な文字には気持ちよくはなまるをつけます」と豪快にはなまるをつける。

 そう語る武田さんにとっては、自ら主宰する書道教室「ふたばの森」もある意味、コラボなのだろう。実際、武田さんは書道教室の目的は二つあると指摘する。書の楽しさをひとりでも多くの人に体験してもらうことがひとつ。そしてもうひとつは、生徒から学ぶためだ。

 「教えることは最大の学びになります。だから飽きないのです。初心者はこう考えるのかとか、この人はこういうことで悩んでいるのだなと、いろいろなことが見えてきます。書には人格が現れますから、書道教室は人間観察に最高の場ですよ」

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