ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

木を診断し、守り、育て、愛情をそそぐ

樹木医 塚本こなみさん

鉄製の巨大な植木鉢をつくる

 木は、幹の一番外側の層が細胞分裂して生きている。この部分の層が根や葉とつながり、葉が光と二酸化炭素と水で糖分をつくって成長していく。幹の内部は生きた細胞ではなく、材という物質になっている。だから幹の内部が空洞になっても木は生き続けることができる。逆に言うと木を移植するときには、外皮を傷つけないことが重要になる。

 そこで塚本さんは幹の外側を包帯で巻いてその上を石こうで固めることにした。つまり、ギプスを巻くのである。これは藤の移植などですでに何度か経験したことのある方法だった。こうしておけば木を吊り上げるときにロープで幹の外皮が傷つくのを防ぐことができるのだ。

30センチ幅の「く」の字型の鉄板を差し込み、根の周りを植木鉢のようにして囲む。

 もうひとつ大事なのは、引っ越し用の根をつくっておくことだ。

 木は常に水を吸い上げていないと生きていけない。水を吸い上げるのは根の先端だ。だから移植時に根の先端を全部切ってしまったら、水を吸い上げられなくなる。そこでまず全周の3分の1、120度分の根を切り、処理をしておく。そうすると3分の2の根は切っていないから十分水を吸い上げることができる。切った根の先端からも新しい根が出てくる。1年後、次の3分の1の根を切って同じように処理をする。そしてまた1年後、同じ作業をする。つまりこの松の移植は3年がかりの大仕事になったのである。

根を傷つけないように慎重に掘り起こす。

 では、もうひとつの難問、砂地に生えているという問題はどう解決したのか。

 「30センチ幅の『く』の字型の鉄板をたくさんつくり、根の周りに差し込みました。そして運ぶときはその鉄板を全部溶接しました。つまり巨大な鉄製の植木鉢をつくったわけです。ただ植木鉢のように底には穴が開いていますから、そのままだと砂が落ちてしまいます。だから運ぶ前日にたっぷり水をかけておきました。そうすると砂と砂の粒子がしっかりくっついて、砂が固くなるのです」

 こうして3年がかりの松の移植は完了。松の持主も高速道路会社も、ただただ塚本さんに感謝するばかりであった。

10トンのクレーンで持ち上げられ、200メートル先の移植場所へ移動する樹齢500年の五葉松。

次のページ: 樹木医になって気がついたこと

1 2 3 4