ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

松とともに生き、松の恵みを受け、松の再生に挑む

ロジン技術者藤田定行さん

低温水蒸気蒸留法を復活させる

 そのためにまず必要なのは、松林だ。ハリマ化成の加古川製造所(兵庫県加古川市)にも400本以上の松が植えられており利用できるが、継続的に松やにを生産するのであればそれでは不十分だ。幸い、格好の適地が見つかった。岡山県美作市にあるゴルフ場の作州武蔵カントリー倶楽部である。約50万坪の広大な敷地に全27ホール3コースを配したこのゴルフ場には、天然の赤松林がふんだんにある。コースに立ったとき眼前に広がる光景がどこか日本的な印象を与えるのも、松の木が多いからだ。しかも何より好都合だったのは、このゴルフコースを経営するのがハリマ化成だということであった。藤田たちは同倶楽部の全面的な協力の下、2015年の春、ゴルフ場に生える10本の赤松から、約300グラムの松やにを採集した。

 まず表面の粗皮を剥ぎ、樹脂道に沿って鑿(のみ)で溝を掘る。すると見る見るうちに透明な松やにが出てくる。無色透明な天然生松やには、神々しささえ感じさせる美しさがある。溝の先に竹製の樋とプラスチックの容器を固定して取り付けておけば、自然とそこに松やにが溜まる仕組みだ。通常は松やにの出をよくするために分泌剤を使用するが、それは松に必要以上のダメージを与えるし、今回は工業用ではないので大量に採集する必要はないから分泌剤は使用しなかった。

写真左 粗皮むきを使い、表面から厚さ10㎜ほどの粗皮を剥ぐ。うろこ剥がしとも言う。

写真右 溝切り。滲み出てくる松やにを見て藤田さんは「この色に魅せられた。まるで汗の滴のようでしょ」と言う。

 ブラジルや中国で松やに採集に携わったスタッフから話も聞いていたので、ここまではさほどの困難はなかった。問題は精製方法だった。藤田は古くからある低温水蒸気蒸留法にこだわった。今はほとんど用いられないこの方法を復活させて伝承することも重要と考えたからである。ただ、この方法だと、高純度の松やにをつくるのが難しかった。そこで藤田は「昔の蒸留法では、この程度の純度の松やにしかできなかったのではないか」と考え、それほど純度の高くない松やにを神社に奉納した。すると弓弦を製作した専門業者からは「これで十分です」という答えが返ってきたのだった。

写真左「松に対して竹の樋は相性がいい」と、鑿を打ちながら、どことなく楽しそう。

写真右「人も傷を負ったら薬を塗って包帯を巻く。松も同じ」松をいたわりながら、ゆっくりと荒縄を巻いていた。

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