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伝説のテクノロジー

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甲州印伝 鹿革と漆が綾なす伝統美

しなやかで立体的な手触り感

 一見すると、それほど難しい作業には見えないかもしれない。けれども漆は粘着性が強いので、ヘラを使ってきれいにのばすだけでも力とコツがいる。鹿革の上に型紙を置き、ヘラで押しのばすようにして漆を載せていくのだが、特に大きな面の鹿革に漆を載せるときはヘラも大きいものを使うため、平均的にバランスよく漆を載せるのは至難の業。個人差はあろうが、上原さんによれば一人前になるには最低でも5年は要するという。

 実際に手に取ってみればわかるが、模様が浮き出るように漆を載せているので、甲州印伝の品には手触りに立体感がある。漆が立体的に載らないと、独特の光沢が出ず、商品にはできないという。実に繊細で奥が深いのである。

柄にも意味があり、トンボは前にしか進まないことから、勝負ごとに縁起の良い柄。写真右の瓢箪柄は、種子が多いことから子孫繁栄を意味する。

 こうしてつくられた甲州印伝の品は、どれも美しく、存在感がある。しかも使い込めば使い込むほど革が柔らかくなっていき、手触りも滑らかになっていく。甲州印伝の品は伝統工芸品であると同時に、財布や巾着、手提げなど実用品でもある。実際に使ってこその価値がある。もちろん使い方にもよるが、丁寧に使えば親から子、子から孫へと3代にわたって使い続けることも可能だという。しかも印傳屋では、自社製品に関しては修理にも対応している。誇りを持ってつくった商品を、長く使ってほしいからであろう。

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