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人を楽しませるアート

絵画のエンターテイナーを自認する舟田潤子さん。
自己表現のためではなく、見る人を楽しませるために
銅版画の作品を生み出している。ポップでカラフル、
色遣いの明るい作品が多い理由はそこにある。

美術家・ 舟田潤子さん

絵画のエンターテイナー

 「え、これが本当に銅版画?」

 舟田潤子さんの作品を初めて見たとき、思わずそんな心の声を口に出してしまいそうになった。

 銅版画といえば水墨画のようなモノクロームの世界が思い浮かぶ。だが舟田さんの作品は、赤や黄色、青や緑といったカラフルな色遣いが特徴的で、まるでポップアートのようだ。しかも細かい部分に目を凝らせば、版画の上に和紙を貼り重ねているところもある。ほかの作品を見ると、海を描いたところに橋が架かっていたり、よくよく見ると端のほうで鍋の形をした電車が走っていたりもするのだ。

 「見た人がわくわくするような作品をつくることが私の創作活動の原点です。いつも絵画のエンターテイナーでありたいと思っています。よく絵の中に隠し絵のようなものを描くことがあるのですが、それは、作品を家に飾られて時が経ってからも、眺めてもらう時間が長いほど発見や気づきがあったりと長く楽しんでいただけるように、仕掛けをしているような気持ちで描いています。1枚の絵で2度楽しめるかもしれませんよね。自己表現のみを目的にしていないので、自分の暗い部分や悩んでいる部分は絵に表れてほしくないのです」

 そういう舟田さんが銅版画に出会ったのは、京都精華大学芸術学部の2回生のときだった。

 子どもの頃から人に楽しんでもらうために何かをつくるのが大好きだった舟田さん。姉が芸術系の精華大学に通っていたことや自身も絵や創作が好きだったことから、京都精華大学の芸術学部の版画専攻の学科を選んだ。当時、この学科は版画や絵画だけでなく、紙漉きや、写真、PCの知識など、さまざまな方向から美術を学ぶ機会が設けられていた。その中で銅版画に出会い、気づけばのめり込むように面白さに魅了されていった。

凸版刷りの際にインクをのせるためのローラー。

 「それまで私の描く絵は柔らかいタッチでメルヘンチックになりがちでした。銅版画は手で描いたものとまた違い、金属を通すことにより出てくる独特の力強い線が表現できたのです。銅板を腐蝕させてプレスしてつくることで、深みや厚みのある線、にじみのある線も描ける。版を刷ると描いた世界が反転するのに慣れるまで時間がかかりましたが、銅版ならではの風合い、また思いがけない展開や偶然出てくるモノたちも。そこが面白くて、銅版画の魅力にどんどんはまっていきました」

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