ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

クロスカップリング反応を応用して有機薄膜太陽電池の開発に邁進

たとえばスプレーで塗料を壁に吹き付けると、その壁が太陽電池になる。
そんな究極の目標を目指して西原さんは有機薄膜太陽電池開発に挑んでいる。
もともとの専門は有機合成における新反応の開発。
現在行っている太陽電池の研究でも反応開発が非常に重要だという。
まだ誰も使ったことのない反応で有機化合物を合成し、新しい機能を持たせる。
いつか自分が見出した反応が「西原反応」と呼ばれるようになるのが夢だ。

西原康師

岡山大学大学院
自然科学研究科 教授

5年以内に変換効率15%の達成が目標

まず、現在の研究についてお話しください。

 今は科学技術振興機構(JST)の「ACT-C」(先導的物質変換領域)というプロジェクトに参加しています。JSTが全国に公募し、50件の研究課題を採択したもので、私は岡山大学の他の先生方や企業にも入っていただいた研究グループの研究代表者を務めています。このグループの研究には、有機超伝導、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜太陽電池という三つの柱があります。私の研究室では、有機薄膜太陽電池の研究を中心に進めています。

それは普通の太陽電池とどう違うのですか。

作成した有機薄膜太陽電池

 今普及している太陽電池はシリコンを使っています。ただ、シリコンの単体を精製するためには大規模な設備や相当な投資が必要です。だから電池の価格も高くなってしまいます。最近は安くなったといわれますが、住宅の屋根に取り付けるタイプは120万円から200万円くらいします。10年か15年くらい使ってようやく初期費用の回収ができるという水準です。また、シリコンのもとになるケイ素は金属ではありませんが、炭素よりは重いので、屋根の上に設置するためには相当頑丈な梁を取り付けたりする必要があります。それに対して我々が目指しているのは、有機化合物で作った薄い膜からなる太陽電池です。有機化合物は有機溶媒に溶けるという特性があります。その特性を生かして、インクジェットプリンターのように紙やプラスチックなどに印刷できるタイプの電池を開発するのがひとつの目標です。極端な言い方をすれば、壁にスプレーで吹き付けて電極をつけると、壁全体が太陽電池になる。あるいは塗料に混ぜて自動車を塗装すると、自動車そのものが太陽電池になる、そんなイメージです。

それは素晴らしい開発だと思いますが、実用化できるのですか。

 ひとつの問題は、光電変換効率です。受けた太陽光をどれくらい電気に変換できるか、ということですね。今、有機薄膜太陽電池で世界最高の変換効率を達成しているのは日本企業が開発したもので約11%です。10年くらい前は2~4%でしたから、大きな進歩といえます。シリコン系の太陽電池は変換効率が20~25%ですが、先ほどお話ししたように価格や重量の問題がありますので、それを考慮すると有機薄膜太陽電池は15%の変換効率を実現できれば実用化できるといわれています。

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