ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

生体分子と人工分子でつくる 超分子ナノ構造体

池田 将

ドラッグデリバリーシステムへの展開も

そもそもなぜこういう研究をするようになったのですか。

 両親によると私は小さい頃からブロックで遊ぶのが好きだったようです(笑)。小さな木の切れ端を接着剤でくっつけて、なんだかわからないものを黙々とつくっていたそうです(苦笑)。

そういう子どもはアートのほうに行きそうな気もしますが。

 原子をつなげて分子をつくったとき、「この分子はきれいだな」と思うことがあります。ほかの研究者がつくった分子を見て同じように感じることもあります。僕の感覚で美しい分子とか構造体が組みあがればいいなと思うところもあります。そういう意味では、意外にアートの要素も強いかもしれませんね。

3次元マトリックス構造の材料は、どういう応用が考えられますか。

 1つ考えられるのはドラッグデリバリーシステムです。ナノサイズの構造体に薬物を閉じ込めておけば、デリバリーできるのではないかと考えています。

糖尿病の治療薬であるインスリンを能動的に放出できるヒドロゲルの開発に成功されたそうですね。

 この場合は生体分子のペプチドと人工的に合成した分子を置換基としてつなげたハイブリッド分子を使っています。その分子をファイバー状のナノ構造体になるようにデザインするのです。またこの分子は、化学反応によって生体分子から人工の置換基が離脱するメカニズムにより、特定の刺激に応答して生体分子と人工分子の結合が切れるようにデザインしてあります。結合が切れるとファイバーが崩れ、ゼリーが溶けます。ゼリー状態で細胞を入れて培養し、ある程度の組織になったらゼリーを溶かして細胞だけの構造体にすれば、移植医療に使えるのではないかと考えています。

ドラッグデリバリーの場合は、細胞ではなく何らかの薬剤を入れるというわけですね。

 インスリンをこのゼリーの中に閉じ込めておいて皮下に注射すれば、インスリンはゆっくりとしか出ていかないことが想定できます。しかし、酵素とグルコースもゼリーの中に入れておくと、酵素反応でグルコースから過酸化水素が発生し、ゼリーが溶けるというように反応を組み立てることができます。そうすると少しずつ出ていたインスリンがだんだん速く出るようになる。インスリンの投与量をコントロールできる仕掛けになるというわけです。

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