ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

美しい構造の分子を追い求めて

雨夜 徹

難易度の高い合成に挑戦

留学の後は東京工業大学から大阪大学に移られましたね。

 大阪大学ではいろいろな研究をさせてもらいましたが、その1つがサッカーボール型のフラーレンの部分構造で示されるお椀型分子「スマネン」の研究です。これはもともとインドの研究者が名付けた分子ですが、世界で初めてその合成に成功したのは大阪大学の平尾俊一研究室で当時准教授をされていた櫻井英博先生です。このときは先生の論文が『Science(科学雑誌)』誌に掲載されました。すごい快挙ですが、実はこのスマネンもすぐに何かに使えるというものではありません。

スマネンの構造美には機能が宿っていなかったということですか。

 私は櫻井先生から引き継ぐ形でスマネンの研究をさせていただきました。スマネンの面白い特徴をいくつも見つけることはできたものの、社会に直接的に役立つ機能はまだ見つけられていません。しかし、こういうインパクトのある分子が合成されたら世界中が巻き込まれて1つの分野が築かれていくことがよくわかりました。

スマネンのどういった点が「インパクト」を与えたのでしょうか。

 いろいろな視点があると思いますが、私は有機合成化学者なので、合成の難しさを1つのポイントと考えています。スマネンはベンゼン環が歪んでいるため合成がとても難しく、そこがチャレンジングなのです。しかし、合成法を工夫すれば合成できるとわかったことで、この分野の研究が大いに進みました。

 私の出世作の1つになったS字型分子も、合成が非常に難しいと予想される高ひずみ分子でした。ベンゼン環をつなげてS字型にした分子です。ベンゼン環をつなげたものをS字型に曲げるのは容易ではないので、これを合成するために、スピロビフルオレンというX字型のユニットを連結させることを考えました。そうすると2本のS字型構造を持つものができます。この2本の鎖は歪んでいますが、互いに支え合う形で構造を保つことができるのです。このX字型のユニットをどんどんくっつけていけば面白いものがザクザク出てくることに気づいたため、今はこの研究に注力しています。

圧力調整器付きのロータリーエバポレーターを使って溶媒を留去している

実際、ザクザク出てきているのですか。

 出てきていますよ。例えば、スピロビフルオレンを環状に連結した分子も合成しましたが、このような構造の分子はそれまで報告例がなかったものです。そのほかにもありますが、まだ発表していないものが多いので、ここでお話しすることは控えます。

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