ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

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第3世代有機EL素子開発で世界をリード

安達千波矢

大手メーカーで合成手法を体得

 有機ELの研究を進める中で、正孔(プラスの電流)とエレクトロン(電子)の両方を流す層がないとデバイスとして動かないと、直感的に分かりました。当時、エレクトロンを流しやすい材料(電子輸送材料)はほとんど見つかっていなかったため、それを探す研究を進めました。しかしながら、2年間、ほとんど成果は出ず、マスターのときは1回しか学会発表ができませんでした。

 辛いときもありました。でも研究は楽しい。だから人から何と言われようと気にはなりませんでした。そしてドクター1年生のときに画期的な電子輸送性の材料を見つけることができたのです。

 その材料を実用化したい。しかし大学での実用化は難しいと考え、大手事務機器メーカーに入社しました。複写機のトナーとかOPC(有機光導電体)などの研究をしているこのメーカーには、合成の専門家が30人くらい在籍していました。しかも大学ではありえないような職人技ともいえる大胆な装置や合成手法が使われていました。ところがそれを直接は教えてくれない。知りたかったら実験している姿から盗めという風土だったと思います。だから私はここにいる間に合成の技を全部マスタ ーしようと思い、300を超える新しい有機半導体材料を合成しました。

 研究成果は出たものの、残念ながらこの会社では有機ELの研究の事業化を断念することになったため、会社を退職し、再び信州大学の助教としてアカデミアの世界に戻りました。この経験により、物理出身ながら合成もできるようになり、自分のキャリアとしてはとてもよかったと思っています。

 それから大学に戻って3年程経った頃、転機が訪れました。プリンストン大学のステファン・フォレスト先生から、研究室に来ないかと誘われたのです。以前、メーカーにいたとき、米国での学会に参加し、そこでフォレスト先生にはお会いし、研究室を見せていただいた出会いがありました。そのとき、「君の発表が一番面白かった。将来、研究室に呼んであげよう」と言われていました。単なる社交辞令だろうと思っていましたので、本当に呼ばれたときはうれしかったですね。

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