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次代への羅針盤

次代への羅針盤

真の科学技術創造立国となるために

野依良治[前編]

競争ではなく共創が必要

 科学はさまざまな技術の開発を通じ、近代文明に大きな恩恵をもたらしてきました。顕著な例は平均寿命が伸長したことです。この1世紀の間に先進国の平均寿命は45歳から80歳まで伸びています。科学技術により、身体能力が外的に拡張したことも挙げられます。人間は高度な機械を活用することで、自ら不可能だったいろいろなことができるようになりました。そして言うまでもなく、科学技術は経済成長にも大きく貢献してきました。

 しかし一方で過剰な人的活動は、深刻な気候変動や環境劣化、資源枯渇などをもたらしました。大きな経済格差も生じました。

 科学技術は世界の人々の基本的人権を維持することにこそ、その使命があると思います。そのためには共通の価値創造に向けて、競争ではなく共創が必要です。頭脳循環してあらゆる分野、あらゆる国・地域、あらゆる社会セクターから違った才能を集め、それを組織化し、みんなで知恵を絞らなければなりません。そこから文明社会を維持するための新しい知識や技術をつくっていくことが、とても重要です。

 科学技術創造立国を実現するために、日本はまだまだやらねばならないことがたくさんあるのです。

あらゆる分野から異なる才能を集め、新しい知を生み出すことが必要です。

野依良治 [のより・りょうじ] 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター センター長 1938年、兵庫県出身。京都大学工学部卒業。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。名古屋大学教授、独立行政法人理化学研究所理事長などを経て、2015年6月より現職。触媒による不斉合成法を確立した業績により、2001年ノーベル化学賞を受賞。1986年には「プロスタグランジン類の合成」によって松籟科学技術振興財団の研究助成を受賞。

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