ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

無理だと思われることに挑戦してこそ有機化学だ

茶谷直人

自由な発想を殺してはいけない

 有機合成が果たすべき社会的役割について教科書的な言い方をすれば、社会の役に立つ化合物を大量にかつ安定して供給することです。しかし、私はそう思って研究しているわけではありません。誰も実現していなかった現象や反応を見つけたいという一心で研究しているというのが本音です。もっと言えば、できた化合物が社会の役に立つかどうかということには、興味がありません。研究の目標がそこにあるのではないからです。また、大学は、役に立つかどうか分からない研究もやるべきだと考えています。

 もちろん、私学も含めて大学には国のお金、税金が入っていることも考えないといけません。残念ながら、役に立つかどうか分からない研究も必要だということを逃げ道にしている人がいることも確かです。大学の先生が、あまりにも自由ではいけないでしょう。しかし、自由な発想を殺すのもよくない。そこはバランスだと思います。

 世の中の趨勢として、大学の研究に、役に立つことを求める傾向がありすぎるような気もします。ただ、日本はまだ私たちのような基礎的な研究もサポートしてくれています。韓国や台湾では、日本よりもずっと役に立つことが求められるので、有機合成化学の研究者などがかなりマテリアルサイエンスの方に移っています。予算が取れないために、やむなくそちらにシフトしている現実があります。これは悲しいことです。

 最近は、予算の配分が若手研究者優先になってきています。これはいい傾向だと思います。ただ、これには責任もともなっていることを若手研究者は理解しておく必要があります。一方で最近は研究者に5年~7年くらいの任期が定められることが多くなってきています。5年任期ですと、3年くらいたったら次の就職のことを考えなければならなくなります。だからそれまでに論文を書き終えようとします。そうするとどうしても結果が出やすい簡単なテーマを選びがちになってしまいます。

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