ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

すべては、全合成から始まる

これまでに102種の天然物の全合成を成功させてきた竜田邦明氏。
これは間違いなく世界の最多記録である。並外れた忍耐力、根気、洞察力、そして決して諦めない強い意志がその偉業を可能にしてきた。
有機合成は格闘技だという化学界の泰斗は、人々に科学の意義を
分かりやすく説明することこそ、科学者の使命だと鋭く説く。

Kuniaki Tatsuta

竜田邦明

早稲田大学 栄誉フェロー 名誉教授

できるまでやればいい

 抗生物質は20世紀最大の発見です。若い頃の私は、ならば20世紀が終わるまでに、その全合成を成し遂げてやろうと意気込みました。もちろん抗生物質は数千種類もありますから、そのすべての全合成はいくらなんでも難しい。そこで私は、アミノグリコシド系、マクロライド系、β-ラクタム系、そしてテトラサイクリン系の4大抗生物質にターゲットを定めて全合成に挑みました。最後のテトラサイクリンの全合成ができたのは2000年のことでした。20世紀のうちにという目標は、ぎりぎりで達成できたのです。4大抗生物質すべての全合成に成功できたのは、これが世界で初めてのことでした。

 テトラサイクリンの全合成には、12年かかりました。着想から数えたらもっと長くかかりました。でも、途中で諦めようとは一度も思いませんでした。企業の研究なら、経済的にも時間的にもリミットがあるでしょう。けれどもアカデミックには限界がありません。できるまでやればいいのです。化合物が現に存在しているのですから、全合成ができないわけがないとも思っていました。生合成で微生物がつくっているのですから、人間にできないわけがないと。ただ、ヒントをつかむのに時間がかかるのです。

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