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次代への羅針盤

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エンジョイ・ケミストリーをモットーに、ハイブリッド材料の研究に打ち込む一方で多くの研究者を育ててきた中條善樹氏。今年の3月、京都大学を定年退官したが、これからも研究と教育には携わり続けるつもりだという。

Yoshiki Chujo

中條善樹

京都大学 名誉教授

52人の博士を育てる

 私は京都大学工学部合成化学科の出身で、大学院での博士学位論文は「遷移金属錯体による二酸化炭素の固定及びそれを利用した有機合成反応」というタイトルでした。現在、高分子学会の代表理事・会長を務めていますが(任期は今年の5月まで)、もともとの専門は有機合成・有機金属化学で、高分子ではなかったのです。当時、低分子を扱う研究者はたいてい「高分子は汚い混ざりもの」と考えていたもので、私も「高分子は嫌いだ」と思っていました。

 その私がどういうわけか、高分子を専門とする名古屋大学の山下雄也先生の研究室に助手として採用されることになったのです。高分子の分子量の測定法もろくに知らない私が山下先生の研究室で、修士課程や学部学生の高分子合成の面倒を見なければならなくなったのでした。名古屋に赴任する直前には、高分子の教科書を読み漁って懸命に勉強したことをよく覚えています。

 高分子初心者の私は、山下研究室でまず「無機元素を主鎖に有するポリシロキサンの合成」に取り組みました。このテーマなら有機金属化学の延長で理解できるだろうと考えたからです。この研究がやがて「有機―無機ハイブリッド材料」の研究へと発展し、現在の「元素ブロック高分子材料」へとつながっていったわけですから、面白いものです。

 今年の3月で私は京都大学を退官しました。名古屋大学から京都大学に転じたのが1986年。以来、32年にわたって京都大学の教員として教育と研究に取り組んできました。この間、博士課程の学生を52人、指導してきました。修士課程の学生は122人に及びます。これほど多くのドクターを育てた例は、おそらくほとんどないでしょう。これは、自慢していいことだと思っています。

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