ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

自分の可能性を狭めてはいけない

川合眞紀

研究を止めるのはいつでもできる

 以前、非常に優秀な女性研究者から、研究が辛いと言われたことがありました。「終わりが見えなくて……」と、彼女は言っていました。一方では、寝食を忘れるほど研究に没頭し続ける人もいます。そういう人は単に努力が好きなだけではありません。研究を進めていると、想定外の面白さを発見することがあります。そういう面白さを自分で見出せないと、研究は続けられません。

 新しい発見をし、わくわくしながらそれを追求していくとまた新しい発見がある。そういうことの繰り返しが化学研究の面白さです。ゴールを設定し、そこに到達したら終わりというような研究は化学に適していません。前人未到の山道だと、どこに道があるか分かりません。もしかしたら道がないかもしれない。

 しかし、想定したとおりの道を進んでいくだけの研究なら誰でもできます。私も辛い、辞めたいと思ったことはあります。でも、研究を止めることはいつでもできると考えると、少し気が楽になります。そしてまた研究に没頭していくと面白いものが見えてきて歓喜する。化学の研究とはそういうものです。

 分子科学研究所は原則、内部昇進を禁止しています。外部の大学や研究機関、企業などと常に人事交流をし、ここで育った人が外部に出ていくことで成果を広げられる。あるいは外部から来た人がこの研究所で付加価値を高めてまた外部に出ていく。この研究所だけで研究人生を全うする人はほぼいません。閉じられた世界に居続けてはいけないのです。

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