ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

大地のロマンを表現する環境芸術としての陶壁

陶壁作家の藤原郁三さんはこれまでに約600ヵ所で陶壁を制作してきた。
だがそのうちの17作品はすでに解体されている。
建築物の一部として位置づけられる陶壁には、
建築物自体が寿命を迎えると、作品もまたその役割を終えるという宿命がある。
藤原さんはそれを「陶壁の潔さ」として受け入れている。
だが、今は陶壁という環境アートそのものが存続の危機に立たされている。
このままいけば技術の伝承も難しくなり、
陶壁は伝説のテクノロジーどころか幻のテクノロジーにさえなりかねない。

陶壁作家・藤原郁三さん

壁は地球の断面だ

 東京藝術大学で日本画を専攻していた藤原さんが陶壁と出会ったのは、大学4年のときのことだ。藤原さんが壁画に興味があることを知った大学の教授が、京都で陶房を構えていたひとりの陶芸家を紹介したのがきっかけだった。教授の弟であるその陶芸家、河合紀ただし氏(故人)は、東京から訪ねてきた藤原さんに会うなり、こう問うた。

 「壁とはなんぞや」 藤原さんが返答に窮していると、河合氏は続けて一言、こういった。

 「地球の断面だ」

 原始時代、人類は洞窟に住んでいた。そのときの壁は文字通り、大地であった。その後、文明社会になり、平地に住むようになって生まれたのが建築だ。いわば建築は“擬似洞窟”であり、だから壁は地球の断面だというのが河合氏の持論だったのである。

 若き日の藤原さんは河合氏の言葉に感動し、美術教師として赴任することがすでに決まっていた高校に辞退を申し出ると、河合氏に弟子入りしたのだった。

 この河合氏は陶壁制作のシステム的な技法を確立した人で、実はハリマ化成は氏の作品をいくつか展示している。今年の2月には、1991年にハリマ化成が米テンプルインランド社に寄贈した河合氏の陶製レリーフが20年ぶりにハリマ化成に戻ってくるという感動的な出来事があったばかりである。この作品は近いうちにハリマ化成加古川製造所に展示される予定だ。 ともあれ、こうして藤原さんは約4年半、河合氏に師事した後、独立。1975年、栃木県の益子に藤原陶房を開き、以来40年近く陶壁の制作に打ち込んできた。栃木県立博物館、益子町民センター、花王栃木研究所、真岡市総合体育館など、地元の栃木県を中心に多くの建築物で作品を見ることができる。

洞窟の壁面が壁のルーツ、それは大地のふところ。建築はいわば疑似洞窟であり、現代の壁に大地のぬくもりを感じさせたい。

次のページ: 環境芸術には積極的な妥協が必要

1 2 3