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伝説のテクノロジー

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国産の材料にこだわり名器をつくる信州の巨匠

ヴァイオリン製作者 井筒信一さん

天才ヴァイオリニストがデビューに選んだ名器

 今でこそ、有名なヴァイオリニストが井筒さんのことを“巨匠”と呼ぶ。しかし修業を終えて独立した当初は、ほとんど注文が来なかった時期もあった。

 「もうヴァイオリンづくりは諦めて他の仕事をしたらどうか」

 井筒さんは兄弟から何度も強くそう言われた。けれども井筒さんは歯を食いしばり、ヴァイオリンづくりの仕事を続けた。それは父親との約束があったからだ。

 「父親は木地師(木工職人)でした。僕も子どもの頃は後を継ぐものと思っていました。でも偶然知り合った人からヴァイオリン製作の仕事を教えられ、もともと音楽が好きだったこともあってそちらの世界に行くことにしました。ただ、父は厳しい人でしたからなかなか言い出せませんでした。それでもある日、怒鳴られることを覚悟して父に打ち明けると『死ぬまでやるならいい』と言われたんです。『職人ならそれくらいの覚悟でやれよ』ということなのでしょう。だからちょっと注文が来ないくらいでやめるわけにはいきません」

 そんなこともあったから、1995年、天才ともいわれるヴァイオリニストの五嶋龍さんが札幌でのデビュー演奏会で井筒さんのヴァイオリンを選んだときは「涙が出るほどうれしかった」と言う。

子どもの頃、教会でヴァイオリンを弾く人に憧れていた。だから仕事の話が来たとき、うれしかったそうだ。

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