ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

生命科学への貢献を夢に、蛍光特性変化を起こす分子を研究

相良剛光

可逆的に蛍光特性変化を起こす分子骨格に挑戦

現在取り組まれている研究テーマについてお話しいただけますか。

 松籟科学技術振興財団の助成事業に申請したテーマは、ロタキサン型超分子メカノフォアの高機能化です。機械的刺激を与えると色変化などの応答を示す、メカノフォアという分子骨格があります。しかし、メカノフォアは原子と原子を結び付ける共有結合を切断する必要があったため、可逆性に乏しいという問題がありました。

 そこで私が目をつけたのが、ロタキサンです。ロタキサンは超分子化学の分野で長年研究されてきたインターロック分子の1つで、環状分子の輪の中を軸分子が貫通してできています。軸分子には比較的嵩の高いパーツが入っているため、輪の中から自然に抜けていくことはありません。このロタキサンを使うと、共有結合を切断することなく、導入したポリマーの伸縮に応じて可逆的に光が点いたり消えたりする超分子メカノフォアをつくることができます。

どうしてそれまでの研究とは異なる発想ができたのでしょうか。

 薬学部時代、水中で機械的刺激を受けて蛍光色が変化する、15個から20個程度の両親媒性分子で構成されるミセルの研究をしていたことがあります。しかし細胞に印加される力を検出できなかったので、構成分子数を極限まで少なくすればいいと考え、2つの分子がつながったロタキサンに行きつきました。このときの知見が、メカノフォアの研究に活きています。

最初に色が変わる現象を発見してから10年以上が経過しました。ここまでの成果はいかがですか。

 何をもって成果というのかは評価が分かれると思いますが、こうした現象を見つけたこと自体が大きな成果ですし、スケールをどんどん落としていることも、ポリマーに適用したことも成果になると考えています。

有機化合物を反応させた後に、溶媒を留去するためのエバポレーター

有名なジャーナルに論文がずいぶん掲載されているそうですね。

 2007年の最初の論文、2014年のミセルの論文、そして2018年のロタキサンの最初の論文が『Journal of the American Chemical Society(米国化学会誌)』に掲載されました。ネイチャー系のジャーナルや材料科学の学術誌『AdvancedMaterials』で当該分野の解説記事・総説を執筆したこともあります。

まだわかっていないことを挙げるとすれば、どんなことがありますか。

 どれくらいの力で発光特性を変化させているのかが、まだ明確には計測できていないんです。1つの環状分子を動かすのに必要な力がどれくらいなのか、わかっていないということです。

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