
次代への羅針盤
社会に届いてこそ研究には意味がある
早くから高分子化学と医学を融合させてきた武岡真司氏。
研究者は論文を書いて終わりではなく、社会実装を目指すべきだと熱く語る。
Shinji Takeoka
武岡真司
早稲田大学 理工学術院 教授
生命医科学科の創設に尽力
2007年、早稲田大学の理工学部は基幹理工学部、創造理工学部、先進理工学部の3学部体制に再編されました。この中で、先進理工学部は物理、化学、生命科学を基盤に先進的な学問を教育し、研究する位置づけになっています。
その先進理工学部の一学科である生命医科学科の立ち上げに、私は深く関わらせていただきました。もちろん、それには、理由がありました。
私は早稲田の大学院生のとき、土田英俊先生の高分子化学研究室に所属していました。土田先生は当時、医理工連携で人工血液の研究をされていて、私もそれを受け継ぎ、人工赤血球や人工血小板の研究に取り組むようになりました。早稲田大学理工学部の教員になってからも、慶應義塾大学医学部の先生方と共同で研究に取り組みました。人工赤血球であるヘモグロビン小胞体は、この研究で私たちが開発したもので、一緒に開発しました酒井宏水博士が奈良県立医科大学で臨床試験まで発展させています。
共同研究には研究室の学生も参加していましたが、当時、私と学生たちの専攻は応用化学でした。血液学や解剖学に関する専門知識は持っていませんし、実験で使う動物には触ったこともありません。そうした学生が医学部との共同研究に取り組むには大きなギャップがあると私は感じていました。やはり学部生のときから物理や化学に加えて生命科学や医学の基礎を学ぶ必要があるのです。